「羊たちの沈黙」、「ハンニバル」、「レッド・ドラゴン」のハンニバル・レクター。「ヤング・ハンニバル」の前章が「レッド・ドラゴン」だ。
リメイク版では、 William Blakeの「Songs of Innocence」、「Songs of Experience」などが引用されるのであるが、水彩画「The Great Red Dragon and the Woman Clothed with the Sun 大いなる赤き竜と太陽を纏う女」には、知恵と悪の化身である魔王サタンを赤き龍として描いている。
この赤き龍が、ハンニバルの象徴なのだね。
日本ではメジャーな画家ウィリアム・ブレイクの「Songs of Innocence」、「Songs of Experience」、そしてなかでも「The Great Red Dragon and the Woman Clothed with the Sun」は、レクター博士の執着が激しい。
映画のなかで、博士は Anne Singleton(アン・シングルトン)の「レダと白鳥」を好んでいるわけだけれど、フェルメール、ティツィアーノ、ジェリコーを鑑賞する博士が、このウィリアム・ブレイクなる画家の絵画に、何故これほど関心を寄せるのだろう。
ちょっとウィリアム・ブレイク(1757-1827)についてと、ハンニバル・レクターが使用した偽名について徒然なるまま・・・。(相当に長くなりました。)
イギリスの画家にして詩人。青空文庫に、「天国と地獄の結婚 The Marriage of Heaven and Hell」(フランス革命が背景の詩画集)、「無垢と経験のうた」(原作は詩画集)も読んでみてください。
「幻視者」の異名を持ち、唯理神ユリゼンをはじめとする独自のブレイク神学を構築する。その作品群には、神秘思想家スウェーデンボルグの影響が強い。 晩年にはダンテに傾倒し、病床で約100枚にのぼる『神曲』の挿画(未完成)を描いた。 by Wikipedia
ウィリアム・ブレイクは、Dante(ダンテ)の恋人Beatrice(ベアトリーチェ 1266~1290)に、『新生(La Vita Nuova)』での若きダンテが美少女ベアトリーチェへの思慕を謳い上げている絵画を残している(多分、そのシーンだと思われる)。それが「Beatrice Addressing Dante 」だと思う。
詩作では、1808年に『ミルトン(Milton)』、1818年、『エルサレム(Jensalem)』を完成させている。右がミルトンの『To Annihilate the Self-Hood of Deceit' from a Poem by Milton』で、ウィリアム・ブレイクの1804-8年作製とされている。
自由主義者で、画家、職人、詩人、彫版師などと、非凡な才能を持っていたが、一世風靡をすることもなく、清貧と生涯を終えたらしい。
さて、レクター博士に話しをもどすと、非凡であるウィリアム・ブレイクが、晩年ダンテへ傾倒していくのだけれど、ハンニバル・レクターは、「フェル博士」と名乗り、ダンテ学者を気取り、カッポーニ宮の司書の座につく。
モデルとされるフェル博士の名はマザーグースにも歌われたオックスフォードのクライスト・チャーチ学寮長の名「ジョン・フェレ」であるが、ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」のDr. Gideon Fell(ギデオン・フェル博士)が、最初の引用とすると、トーマス・ハリスがこのマザーグースか三つの棺の「フェレ」から名づけたのかもしれない。
名はマザーグースからであるジョン・ディクスン・カーのギデオン・フェル博士だけれど、人物像は哲学博士、法学博士、王立歴史学協会会員スコットランド・ヤード名誉顧問などの肩書きを持つミステリ作家G・K・チェスタトンだという。三つの棺のなかで、フェレ博士は、密室トリックの全貌を講義する。
多くの肩書きは、ハンニバル・レクターも同様であり、その作家が物語によって「フェレ博士」として登場するというオマージュかパロディの匂い。
1933年 帽子収集狂事件 (The Mad Hatter Mystery)
1934年 盲目の理髪師 (The Blind Barber)
1935年 三つの棺 (The Three Coffin)
1936年 アラビアンナイトの殺人 (The Arabian Nights Murder)
1938年 曲がった蝶番 (The Crooked Hinge)
1939年 緑のカプセルの謎 (The Problem of the Green Capsule)
上記がフェレ博士シリーズだけれど、ハンニバル・レクターの「フェレ博士」は追われる側。ディクスン・カーの「フェレ博士」は犯人を追う側。このへんも謎めいている。
DONT LIKE THEE, DOCTOR FELL
I do not love(like) thee Dr. Fell,
The reason why I cannot tell,
but this I know, and know full well,
I do not love(like) thee Dr. Fell
これはマザー・グースの「私はフェル博士が嫌いだ」から。
(Fell-tell-wellーFellですね。)
フェル先生 僕はあなたが嫌いです
分けなんてわかりません
だけどそうなんです それは十分に知っている
僕はあなたが嫌いなんです フェル先生
さて、最初に記したクライスト・チャーチ学寮長の名「ジョン・フェレ」という話は、Thomas Brown(トーマス・ブラウン 1663-1704 作家)によってよく知られているんですね。なぜなら、彼がオックスフォード大学時代に学寮長に処分されそうになったからだという。
(引用:blog Latin July 06, 2004 Paging Dr. Fell 海外では、わりと知ってる話なんですね。)
さらに
Charles Addams even had a charming illustration of it in his Mother Goose, with Dr. Fell as a mad scientist.
ほー、このあいだチャーリー・アダムスの記事をちょこっとエントリーしたけれど、彼の「The Charles Addams Mother Goose 」は、フェル博士を狂人博士に仕立てらしい。このマザー・グースは、1967年に出版されている。
ダンテとフェル・・・。なぁんかつながりないかと考えたけど、ダンテの詩を暗誦しているわけでもなし。
あぁ~、取り越し苦労。
※sweet-sweetさん、画像アップありがとうございました。
リメイク版では、 William Blakeの「Songs of Innocence」、「Songs of Experience」などが引用されるのであるが、水彩画「The Great Red Dragon and the Woman Clothed with the Sun 大いなる赤き竜と太陽を纏う女」には、知恵と悪の化身である魔王サタンを赤き龍として描いている。
この赤き龍が、ハンニバルの象徴なのだね。
日本ではメジャーな画家ウィリアム・ブレイクの「Songs of Innocence」、「Songs of Experience」、そしてなかでも「The Great Red Dragon and the Woman Clothed with the Sun」は、レクター博士の執着が激しい。
映画のなかで、博士は Anne Singleton(アン・シングルトン)の「レダと白鳥」を好んでいるわけだけれど、フェルメール、ティツィアーノ、ジェリコーを鑑賞する博士が、このウィリアム・ブレイクなる画家の絵画に、何故これほど関心を寄せるのだろう。
ちょっとウィリアム・ブレイク(1757-1827)についてと、ハンニバル・レクターが使用した偽名について徒然なるまま・・・。(相当に長くなりました。)
イギリスの画家にして詩人。青空文庫に、「天国と地獄の結婚 The Marriage of Heaven and Hell」(フランス革命が背景の詩画集)、「無垢と経験のうた」(原作は詩画集)も読んでみてください。
「幻視者」の異名を持ち、唯理神ユリゼンをはじめとする独自のブレイク神学を構築する。その作品群には、神秘思想家スウェーデンボルグの影響が強い。 晩年にはダンテに傾倒し、病床で約100枚にのぼる『神曲』の挿画(未完成)を描いた。 by Wikipedia
ウィリアム・ブレイクは、Dante(ダンテ)の恋人Beatrice(ベアトリーチェ 1266~1290)に、『新生(La Vita Nuova)』での若きダンテが美少女ベアトリーチェへの思慕を謳い上げている絵画を残している(多分、そのシーンだと思われる)。それが「Beatrice Addressing Dante 」だと思う。
詩作では、1808年に『ミルトン(Milton)』、1818年、『エルサレム(Jensalem)』を完成させている。右がミルトンの『To Annihilate the Self-Hood of Deceit' from a Poem by Milton』で、ウィリアム・ブレイクの1804-8年作製とされている。
自由主義者で、画家、職人、詩人、彫版師などと、非凡な才能を持っていたが、一世風靡をすることもなく、清貧と生涯を終えたらしい。
さて、レクター博士に話しをもどすと、非凡であるウィリアム・ブレイクが、晩年ダンテへ傾倒していくのだけれど、ハンニバル・レクターは、「フェル博士」と名乗り、ダンテ学者を気取り、カッポーニ宮の司書の座につく。
モデルとされるフェル博士の名はマザーグースにも歌われたオックスフォードのクライスト・チャーチ学寮長の名「ジョン・フェレ」であるが、ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」のDr. Gideon Fell(ギデオン・フェル博士)が、最初の引用とすると、トーマス・ハリスがこのマザーグースか三つの棺の「フェレ」から名づけたのかもしれない。
名はマザーグースからであるジョン・ディクスン・カーのギデオン・フェル博士だけれど、人物像は哲学博士、法学博士、王立歴史学協会会員スコットランド・ヤード名誉顧問などの肩書きを持つミステリ作家G・K・チェスタトンだという。三つの棺のなかで、フェレ博士は、密室トリックの全貌を講義する。
多くの肩書きは、ハンニバル・レクターも同様であり、その作家が物語によって「フェレ博士」として登場するというオマージュかパロディの匂い。
1933年 帽子収集狂事件 (The Mad Hatter Mystery)
1934年 盲目の理髪師 (The Blind Barber)
1935年 三つの棺 (The Three Coffin)
1936年 アラビアンナイトの殺人 (The Arabian Nights Murder)
1938年 曲がった蝶番 (The Crooked Hinge)
1939年 緑のカプセルの謎 (The Problem of the Green Capsule)
上記がフェレ博士シリーズだけれど、ハンニバル・レクターの「フェレ博士」は追われる側。ディクスン・カーの「フェレ博士」は犯人を追う側。このへんも謎めいている。
DONT LIKE THEE, DOCTOR FELL
I do not love(like) thee Dr. Fell,
The reason why I cannot tell,
but this I know, and know full well,
I do not love(like) thee Dr. Fell
これはマザー・グースの「私はフェル博士が嫌いだ」から。
(Fell-tell-wellーFellですね。)
フェル先生 僕はあなたが嫌いです
分けなんてわかりません
だけどそうなんです それは十分に知っている
僕はあなたが嫌いなんです フェル先生
さて、最初に記したクライスト・チャーチ学寮長の名「ジョン・フェレ」という話は、Thomas Brown(トーマス・ブラウン 1663-1704 作家)によってよく知られているんですね。なぜなら、彼がオックスフォード大学時代に学寮長に処分されそうになったからだという。
(引用:blog Latin July 06, 2004 Paging Dr. Fell 海外では、わりと知ってる話なんですね。)
さらに
Charles Addams even had a charming illustration of it in his Mother Goose, with Dr. Fell as a mad scientist.
ほー、このあいだチャーリー・アダムスの記事をちょこっとエントリーしたけれど、彼の「The Charles Addams Mother Goose 」は、フェル博士を狂人博士に仕立てらしい。このマザー・グースは、1967年に出版されている。
ダンテとフェル・・・。なぁんかつながりないかと考えたけど、ダンテの詩を暗誦しているわけでもなし。
あぁ~、取り越し苦労。
※sweet-sweetさん、画像アップありがとうございました。
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